登山の体力作りのイメージ

登山

体力がないと登山は無理?登山初心者におすすめの体力づくり法

結論:体力に自信がなくても登山は楽しめる!ただし「準備」は必須です

「登山に挑戦したいけれど、学生時代から運動部でもなかったし、体力にまったく自信がない…」
そう考えて、一歩を踏み出せないでいる方は非常に多いです。ご安心ください。結論から言えば、体力に自信がなくても登山は楽しめます!

ただし、近所の公園を散歩するのとはワケが違います。安全に、そして「楽しい」と感じる登山にするためには、「初心者なりの正しい準備」が絶対に必要です。

この記事では、なぜ登山に体力が必要なのか、そして体力に自信がない人でも無理なく始められる「登山に向けた体力づくり」の方法を具体的に解説していきます。

「体力がないから無理」は誤解。低い山から始められます

多くの方が「登山=きつい・苦しい」というイメージを持つのは、テレビなどで見る日本アルプスのような険しい山々を想像しているからかもしれません。

しかし、登山には様々なレベルがあります。初心者のうちは、標高が低く、歩行時間が2~3時間程度の「低山(ていざん)」から始めるのが鉄則です。こうした山であれば、自分のペースでゆっくり歩き、こまめに休憩を取りながら登れば、体力に自信がなくても山頂にたどり着くことは十分に可能です。「登り切った」という達成感は、次のステップへの大きな自信になるでしょう。

準備ゼロはNG!体力不足が招く登山の危険性とは?

「低い山なら大丈夫」と安心するのも束の間、準備ゼロで挑むのは非常に危険です。例えば、Tシャツにジーンズ、履きなれたスニーカーといった「普段着」のまま登ろうとするのは絶対にNGです。

山道は、舗装された道路とは違い、不安定な岩場や滑りやすい土、木の根が張り出した道が続きます。体力がない状態でこうした道を歩くと、想像以上の早さで体力が奪われ、足が上がらなくなって転倒し、怪我をするリスクが高まります。
さらに、体力が尽きて動けなくなる「行動不能(シャリバテ)」状態に陥れば、道に迷ったり、日没を迎えたりと、最悪の場合は「遭難」につながる危険性もゼロではありません。

安全に下山するまでが登山です。こうしたリスクを避け、心から登山を楽しむために、最低限必要な体力づくりと装備の準備が鍵となります。

なぜ登山に「体力」が必要?重視すべきは「持久力」と「下半身」

「体力づくり」と一口に言っても、登山に必要な体力は、短距離走のような瞬発力や、重いバーベルを持ち上げる筋力とは少し異なります。登山は、荷物を背負って数時間にわたり坂道を上り下りする、特殊な全身運動です。

初心者が特に意識して鍛えるべきなのは、「①心肺持久力」「②脚の筋力(特に下半身)」「③体幹(バランス)」の3つです。どれか一つが優れていてもダメで、これらのバランスが取れていることが、安全で楽しい登山につながります。

① 登り続けるための「心肺持久力」

登山はまさに「長時間・中強度」の運動の代表格です。歩き始めてすぐに息が切れてしまっては、景色を楽しむ余裕もなくなってしまいます。

心肺持久力とは、簡単に言えば「長く動き続ける(バテない)力」のこと。体内に酸素を効率よく取り込み、それをエネルギーとして筋肉に送り続ける能力です。この持久力がなければ、急な登りでなくてもすぐに疲労困憊(ひろうこんぱい)になってしまいます。まずはこの基礎体力を「有酸素運動」で高めていくことが、体力づくりの第一歩となります。

② 体重と荷物を支えて下るための「脚の筋力」

登山初心者が最も苦労し、そして怪我をしやすいのは、意外にも「登り」ではなく「下り」です。

登りでは主に太ももの裏側(ハムストリングス)やお尻の筋肉を使いますが、下りでは、自分の体重と荷物の全重量を支えながら、着地の衝撃を受け止めるために太ももの前側の筋肉(大腿四頭筋)に「ブレーキ」をかけ続けます。
この筋力が不足していると、すぐに膝がガクガクする「膝が笑う」状態に陥ったり、膝や足首の関節を痛めたりする原因になります。下山まで安全に脚をもたせるため、下半身の筋力強化は必須です。

③ 転倒防止と疲労軽減につながる「体幹(バランス)」

整備された道ばかりではないのが登山です。不安定な岩場や木の根が張り出した道で重いザック(リュック)を背負って歩くには、体の軸を安定させる「体幹」が非常に重要です。

体幹が弱いと、ザックの重みで体が後ろに引っ張られたり、少しバランスを崩しただけですぐにふらついたりしてしまいます。無意識にバランスを取ろうとすることで、脚や腕に余計な力が入り、全身の疲労が早まります。しっかりとした体幹は、フォームを安定させ、転倒による怪我を防ぎ、疲労の軽減にも直結する「登山の土台」と言えます。

登山初心者におすすめ!今日から始める体力づくり【3つの柱】

登山に必要な3つの要素(持久力・筋力・体幹)が分かったところで、いよいよ具体的なトレーニング方法をご紹介します。
特別なジムに通う必要はありません。大切なのは「普段の生活の中でいかに登山の動きを取り入れるか」です。まずは無理のない範囲で、継続することを目標にしましょう。

【柱1:有酸素運動】まずは「歩く」ことから。持久力を養う

体力づくりの基本であり、最も重要なのが「心肺持久力」の向上です。前のセクションで解説した通り、これは「長くバテずに動き続ける力」を養うトレーニングです。

登山は「歩く」ことの延長線上にあります。そのため、最も安全で、誰でもすぐに始められるトレーニングが「ウォーキング」です。怪我のリスクも低く、登山の基礎を固めるのに最適です。

基本はウォーキング。目指せ「30分以上」の継続

まずは「30分以上、止まらずに歩き続ける」ことを目標にしてみましょう。慣れないうちは週に2~3回でも構いません。
ただし、ただダラダラと歩くのではなく、「運動である」ことを意識するのがコツです。具体的には、以下の点を心がけてください。

  • 背筋を伸ばし、視線は遠くを見る
  • 歩幅(一歩の幅)を普段より少し広くする
  • かかとから着地し、つま先で地面を蹴る
  • 腕を軽く曲げ、リズミカルに後ろに引くように振る

正しいフォームを意識するだけで、使われる筋肉が増え、運動効果が格段にアップします。

慣れてきたら「早歩き」や「ジョギング」で心拍数を上げよう

30分のウォーキングが楽に感じてきたら、次のステップに進みます。負荷を上げ、心肺機能をさらに強化しましょう。

方法は2つあります。一つは「ウォーキングのペースを上げる(早歩き)」。もう一つは、ウォーキングの合間にゆっくりとした「ジョギング(スロージョギング)」を挟むことです。
強度の目安は、「息が弾むけれど、ギリギリ会話はできる程度」です。息が切れすぎて会話ができないほどのペースは、持久力を養う運動としては強すぎます。「ややきつい」と感じるレベルで継続することが、心肺持久力を高める最も効率的な方法です。

忙しい人向け!日常生活でできる「ながらトレーニング」のコツ

「毎日30分も時間を取るのが難しい」という方も多いでしょう。その場合は、「こま切れ時間」を徹底的に活用します。

最も効果的なのは、日常生活で「階段を使う」ことを徹底することです。駅や会社、マンションなどで、エスカレーターやエレベーターを意図的に避け、すべて階段で移動するだけでも、1日の運動量は大きく変わります。
また、「通勤時に一駅手前で降りて歩く」「ランチは少し遠いお店まで歩く」など、細切れの「歩く時間」を積み重ねることも有効です。

【柱2:筋力トレーニング】自宅でOK!下半身と体幹を鍛える

持久力を養う有酸素運動と並行して、登山特有の動きに耐えるための筋力トレーニングも取り入れましょう。
特に重要な「下半身」と「体幹」は、ジムに通わなくても自宅で十分に鍛えることができます。週に2~3回を目安に、各種10回×3セット程度から始めてみてください。大切なのは正しいフォームで行うことです。

登山の基本動作!「スクワット」で太ももとお尻を強化

スクワットは「キング・オブ・筋トレ」と呼ばれるほど万能なトレーニングで、登山にも絶大な効果を発揮します。
登山で重いザックを背負って急な坂を「登る」動作は、まさにお尻(大臀筋)や太ももの裏側(ハムストリングス)を使います。スクワットはこれらの筋肉を総合的に鍛えられるため、登りのパワーアップに直結します。

【やり方】

  1. 足を肩幅程度に開いて立ちます。つま先は少しだけ外側に向けます。
  2. お尻を後ろに突き出すように意識しながら、ゆっくりと腰を落とします。(目安は太ももが床と平行になるまで)
  3. この時、膝がつま先よりも前に出すぎないように注意し、背中が丸まらないよう胸を張ります。
  4. かかとに重心を感じながら、ゆっくりと元の姿勢に戻ります。

膝が痛む場合は、無理のない浅い角度から始めてください。

下りの衝撃に耐える「ランジ(踏み込み運動)」

登山で最も負担がかかる「下り」。その衝撃に耐える太ももの前側(大腿四頭筋)と、バランスを取るためのお尻の筋肉を同時に鍛えられるのが「ランジ」です。

下りの一歩一歩の着地をシミュレーションするトレーニングだと考えてください。これができるようになると、下山時の「膝の笑い」を劇的に軽減できます。

【やり方】

  1. 背筋を伸ばしてまっすぐ立ちます。
  2. 片足を大きく一歩前に踏み出し、両膝を曲げて腰を真下に落とします。
  3. 目安は、前に出した足の膝が90度、後ろの足の膝が床スレスレになるまでです。
  4. 前に出した足のかかとで地面を蹴るようにして、元の姿勢に戻ります。これを左右交互に行います。

ふらつく場合は、壁や椅子に手をついて行っても構いません。

ザック(リュック)を背負ってもブレない体幹!「プランク」

重いザックを背負っても体がふらつかず、疲労を軽減するために不可欠なのが「体幹」です。プランクは、腹筋や背筋、インナーマッスルまで、胴体全体を効率よく鍛えるトレーニングです。

【やり方】

  1. うつ伏せになり、両肘(ひじ)を肩の真下について上体を起こします。
  2. つま先を立て、腰(お尻)を持ち上げます。
  3. 頭からかかとまでが一直線になるように意識し、その姿勢をキープします。

お尻が上がりすぎたり、腰が反ったりしないように注意してください。まずは「30秒キープ」を目標に始め、徐々に時間を延ばしていきましょう。

【柱3:実践トレーニング】最も効果的!「階段」を使って山に慣れる

有酸素運動と筋トレ。これら2つを同時に、かつ最も登山に近い形で行えるのが「階段の上り下り」です。

体力づくりの項目(柱1)でも触れましたが、あちらは「日常生活で運動量を確保する」ための有酸素運動としての側面が強いものでした。ここでおすすめするのは、「登山の練習」として意識的に階段を使うトレーニングです。平地でのウォーキングやスクワットでは鍛えにくい、坂道を上り下りするための筋肉と心肺機能を同時に鍛えることができます。

登山に最も近い動き!通勤・通学時間を活用

このトレーニングのために、わざわざ時間を確保する必要はありません。通勤・通学で使う駅や、オフィスビル、マンションの階段こそが、最高のトレーニングジムです。

ただし、ここでも「登り」と「下り」では意識するポイントが異なります。

  • 【登り】心肺機能と「お尻」の筋肉を意識
    階段を登るときは、背筋を伸ばし、なるべく手すりを使わずに登りましょう。太ももだけでなく、「お尻の筋肉(大臀筋)」を使って体全体を持ち上げるイメージを持つと、登山の登り坂に非常に近い動きになります。余裕があれば、一段飛ばし(2段登り)を行うとさらに負荷が高まります。
  • 【下り】「ブレーキ」をかける筋肉を鍛える
    絶対にやってはいけないのが、ドスドスと音を立てて駆け下りることです。これは膝を痛める原因にしかなりません。
    登山の下山時と同じように、膝や太ももの前側(大腿四頭筋)で着地の衝撃を吸収することを意識し、ゆっくりと、むしろ「静かに」下りる練習をしてください。これが、下山時の膝の負担を減らす最高のトレーニング(ブレーキ動作の練習)になります。

毎日通る道に階段があれば、そこは「練習場所」です。この小さな習慣化が、実際の登山で「あれ、意外と疲れないかも?」という大きな差になって表れます。

体力づくり以外にも重要!初心者が安全に登るための準備

ここまで体力づくりについて解説してきましたが、安全な登山はトレーニングだけで成り立つものではありません。
体力が万全ではない初心者こそ、「計画」と「道具」によってその体力を補い、リスクを最小限に抑える必要があります。体力に自信がない人ほど、これから解説する準備を徹底してください。

無理のない山選び(低山・コースタイム目安)

初心者の登山が成功するかどうかは、「山選び」で9割決まると言っても過言ではありません。体力に不安がある場合、いきなり有名な高山や長距離のルートを選ぶのは無謀です。

以下の3つの基準を参考に、無理のない山を選びましょう。

  • ① コースタイム(歩行時間)が短いこと
    登山地図などに記載されている標準的な歩行時間(休憩を含まない)を「コースタイム」と呼びます。まずは往復で3~4時間程度のルートを選びましょう。初心者はこれに休憩時間や予備時間を加え、十分な余裕を見る必要があります。
  • ② 高低差(標高差)が少ないこと
    山の「標高(海抜)」だけを見るのではなく、「登山口と山頂の高さの差(=高低差)」を確認してください。これが大きいほど、急な登りが続くことを意味します。まずは高低差が400m~500m程度までの山が目安です。
  • ③ 登山道が整備されていること
    「初心者向けコース」として紹介されている、登山道がよく整備され、道迷いの心配が少ないルートを選びましょう。岩場や鎖場などの危険箇所がないかも事前に確認します。

道具(ギア)に頼るのも戦略!登山靴とザックの選び方

体力不足を補うためにも、道具(ギア)の力は最大限に活用しましょう。これは「楽をするため」ではなく、「安全に体力を温存するため」の立派な戦略です。
特に以下の2点は、スニーカーや普段使いのリュックで代用せず、必ず専用のものを用意してください。

  • 登山靴(トレッキングシューズ)
    スニーカーとの最大の違いは「ソールの硬さ」と「グリップ力」です。硬いソールがデコボコした道から足の裏を守り、特殊なパターンのソールが滑りを防ぎます。これにより、平地を歩くのとは比べ物にならないほど足の疲労を軽減し、捻挫などの怪我も防いでくれます。
  • ザック(バックパック)
    登山用ザックは、重い荷物を効率よく運ぶために設計されています。特に重要なのが「腰ベルト(ウエストベルト)」です。これを正しく締めることで、荷物の重さを肩だけでなく、体幹や骨盤(腰)にも分散させることができます。これにより体感重量が劇的に軽くなり、肩こりや疲労を防ぎます。

当日のコンディション管理と「勇気ある撤退」

どんなに準備をしても、当日の体調が悪ければ安全な登山はできません。前日はしっかりと睡眠をとり、当日の朝食は必ず食べましょう。エネルギー不足は山での「シャリバテ(行動不能)」に直結します。

そして最も大切な心構えが、「勇気ある撤退(てったい)」です。
登山中に「体力の限界かも」「天気が急に悪化した」「想定より時間がかかりすぎている」と感じたら、山頂を目指すのをやめて引き返す決断をしてください。これは「失敗」では決してありません。登山において最も優先すべき目的は、「無事に家に帰ること」です。山は逃げませんので、万全の状態でまた挑戦すれば良いのです。

まとめ:小さな一歩から始めて、山の景色を楽しもう

「体力がないと登山は無理?」——この記事の冒頭の問いですが、その答えは明確に「No」です。

確かに、登山には特有の体力が必要ですが、それは無茶な山に挑戦した場合です。大切なのは、今の自分の体力レベルを客観的に把握し、それに合わせた「正しい準備」を行うことです。

その準備とは、

  • 日常生活でできるウォーキングや階段の上り下り、自宅での簡単な筋トレ。
  • 自分のレベルに合った、コースタイムが短く高低差の少ない「低山」を選ぶこと。
  • 体力の消耗を防いでくれる「登山靴」や「ザック」など、適切な道具を揃えること。

これらを一つずつクリアすれば、体力に自信がなくても登山は安全に楽しめます。

そして何より、登山の体力は、最終的には「登りながら」ついてくるものです。今回ご紹介したトレーニングは、その第一歩を踏み出すための「入場券」だと考えてください。
まずは週末にスニーカーで近所の公園を長く歩いてみることから。まずは通勤時に階段を使ってみることから。その小さな一歩の積み重ねが、いつかあなたを山頂へと導いてくれます。

準備を万全にして、ぜひ山頂でしか見られない素晴らしい景色と達成感を味わってください。

  • この記事を書いた人

登山ガイドヤッホー

登山情報をお届け。

-登山