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かっこいい登山用語や知っておくべき登山用語をまとめて紹介

登山用語を知るメリットとは?安全と楽しさが格段にアップする理由

登山を始めると、日常では耳慣れない多くの専門用語に出会います。「ガスってる」「シャリバテ」「あの稜線(りょうせん)をトラバースして……」など、初心者のうちは意味がわからず、会話についていけずに不安になったり、格好悪いと感じたりするかもしれません。

しかし、登山用語は単なる「通」ぶるためのものではなく、あなたの登山を「安全」かつ「最高に楽しく」するために不可欠な知識です。まずは、なぜ私たちがこれらの言葉を学ぶべきなのか、その具体的なメリットをご紹介します。

理由1:安全確保とスムーズなコミュニケーションに直結するから

山では「情報」が命です。登山用語は、命を守るための「共通言語」と言えます。
例えば、すれ違う登山者から「この先、鎖場(くさりば)が凍結してるよ」と言われた場合、「鎖場=急な岩場で、鎖を使って登り下りする場所」だと知らなければ、その危険性を正しく認識できません。

また、万が一の事故や道迷いの際、「今、〇〇山のコル(鞍部)にいます」「ガスが出てきてホワイトアウトしそうだ」と正確に状況を伝えられれば、救助のスピードと精度は格段に上がります。用語を知らないことは、重大なリスクを見過ごすことにつながるのです。

理由2:山の状況を正確に把握できる(地図読み・天候判断)

登山用語は、特定の地形や気象現象を端的に表すために生まれました。
地図を見て「カール(圏谷)」や「モレーン」という言葉があれば、そこが氷河によって削られた特有の地形だと想像できます。「稜線(りょうせん)歩きが長い」と分かれば、「風が強いかもしれない」「景色が良いかもしれない」と予測ができます。

用語を覚えることは、単に言葉を暗記することではなく、山を「解像度高く」見る訓練になります。地形や天候の微妙な変化を言葉として認識できるようになり、次の状況を予測する力が身につきます。

理由3:仲間との一体感!「通」な会話が楽しめる

安全面だけでなく、登山を「カルチャー(文化)」として深く楽しむためにも用語は役立ちます。
山小屋で出会ったベテラン登山者が語る「あの時のブロッケンは最高だった」という言葉の意味がわかった瞬間、あなたもその世界の仲間入りです。

また、仲間との登山後、「あそこのトラバースはきつかったけど、ご来光は最高だったね!」と共通の言葉で感動を分かち合えれば、一体感はさらに深まります。用語は、登山者同士をつなぐ「合言葉」でもあるのです。

【初心者必見】まずはこれだけ!絶対に知っておくべき「基本の登山用語」

ここからは、登山計画や実際の登山中に「知らないと恥ずかしい」「知らないと危険」な最重要の基本用語をカテゴリ別に解説します。まずはこれらの言葉をマスターするだけで、登山者としてのレベルが格段に上がります。

カテゴリ1:計画と行動に関する基本用語

登山のスタイルや行動内容を示す、最も基本的な言葉です。登山計画書(登山届)の作成や、仲間との意思疎通に必須となります。

ピストン(往復)

登頂後、登ってきた道とまったく同じルートを通って下山すること。「A地点からB地点までをピストンする」のように使います。日帰り登山で最も多い形態です。

縦走(じゅうそう)

一つの山頂に登頂した後、下山せずにそのまま次の山頂へと稜線(りょうせん)などを伝って歩くこと。複数のピーク(山頂)を連続して踏破する、ロマンあふれる登山スタイルです。

コースタイム(CT)

登山地図に記載されている、各区間の標準的な所要時間のこと。これは休憩を含まない「歩行のみ」の時間であり、一般的に「ベテラン寄り」の体力で設定されています。初心者はこのCTの1.2倍~1.5倍を見積もっておくと安全な計画が立てられます。

標高差(ひょうこうさ)

登り始める地点(登山口など)と、目指す地点(山頂など)との高さの差。「累積標高差」といった場合、途中のアップダウンをすべて合計した「総登り量」を示し、こちらの方が実際の運動負荷(きつさ)を正確に表します。

パッキング/ザック

「ザック」はリュックサック(バックパック)を指すドイツ語由来の言葉で、登山界ではこちらが主流です。「パッキング」は、そのザックに荷物を詰める技術のこと。重いものを上かつ背中側に、軽いものを下や外側に配置するのが基本で、パッキングの上手さが疲労度を左右します。

カテゴリ2:地形とルートに関する基本用語

山の「どこを歩いているか」を示す言葉です。地図読み(読図)や、危険箇所の把握に欠かせません。

登山口(とざんぐち/のぼりぐち)

文字通り、登山を開始する入口のこと。ここを起点にコースタイムを計算します。バス停や駐車場の場所であり、登山届を提出するポストが設置されていることも多い重要地点です。

稜線(りょうせん)

山の峰(みね)と峰を結ぶ、尾根筋(おねすじ)のこと。稜線歩きは視界が開け、絶景が続くことが多いですが、同時に風を遮るものがないため強風にさらされやすい場所でもあります。

沢(さわ)/徒渉(としょう)

「沢」は谷間の水が流れている場所。登山道が沢を横切ることを「徒渉(としょう)」と言います。大雨の後は増水して危険箇所に変わるため、天候によって難易度が激変するポイントです。

鎖場(くさりば)/ハシゴ場

傾斜が急な岩場などで、安全確保のために鎖(チェーン)やハシゴが設置されている箇所。特に下りで恐怖を感じやすく、雨天時は滑りやすいため最大の注意が必要です。「三点支持(両手両足のうち三点で体を支え、一つだけ動かす)」が通過の基本となります。

トラバース

山の斜面を、登りも下りもせず「水平に(横切るように)」移動すること、またそのような登山道のこと。道幅が狭く、片側が切れ落ちている(崖になっている)場合も多いため、滑落に注意が必要な区間です。

森林限界(しんりんげんかい)

高木(背の高い木)が生育できなくなる境界線のこと。これを超えると、視界を遮るものがなくなり高山植物の世界が広がりますが、同時に強い日差しや風雨から身を守るものが一切なくなることを意味します。

カテゴリ3:天候と状態に関する基本用語

山の状況や、自身の体調を表す言葉です。これらは安全管理に直結します。

ガス/ガスる

山で発生する「霧(きり)」のこと。霧もガスも同じ現象ですが、登山界では圧倒的に「ガス」と呼びます。「ガスが出てきた(ガスってきた)」「ガスで視界が悪い」のように使います。視界不良による道迷いの最大の原因です。

ご来光(ごらいこう)

高山や山頂で拝む「日の出」のこと。雲海や地平線から昇る太陽は神々しく、多くの登山者がこれを見るために早朝から登頂を目指します。

シャリバテ(ハンガーノック)

「シャリ(=お米、炭水化物)」が「バテ(=尽きる)」から来た言葉。行動中に炭水化物(エネルギー源)が枯渇し、体が動かなくなる極度の空腹・疲労状態のこと。ハンガーノックとも言います。こうなる前に、こまめに行動食を摂ることが重要です。

高山病(こうざんびょう)

標高が高い場所(一般的に2,500m前後から)で、酸素が薄くなることによって引き起こされる一連の症状。頭痛、吐き気、めまい、倦怠感などが主な症状で、重症化すると命に関わります。防ぐには「ゆっくり登る」「水分を多く摂る」ことが基本です。

【中級者向け】知ってるとかっこいい!「通」が使う専門登山用語

基本用語をマスターしたら、次はステップアップ。ここでは、ベテラン登山者や「山ヤ」と呼ばれる専門家たちが使う、知っていると一目置かれる「かっこいい専門用語」をご紹介します。これらを理解できれば、あなたも立派な中級登山者です。

カテゴリ1:「山ヤ」が使う!かっこいい山の専門用語(地形編)

主にアルプスなどの高山帯で見られる、特殊な地形を指す言葉です。多くがドイツ語など外国語由来であり、知的な響きがあります。

カール(圏谷:けんこく)

氷河時代の氷によって、山肌がスプーンでえぐられたような半円状の谷のこと。「お椀型の地形」と覚えるとよいでしょう。涸沢(からさわ)カールや千畳敷カールが有名で、多くのカール底にはテント場や山小屋が作られています。

モレーン(堆石)

カールとセットで使われる言葉。氷河が谷を削りながら移動する際、削り取った岩や土砂が土手のように堆積した地形のことです。「あのモレーンの上を歩く」といった使い方をします。

コル(鞍部:あんぶ)

稜線上で、ピーク(山頂)とピークの間にある、馬の鞍(くら)のように低くくぼんだ箇所のこと。「鞍部」とも言いますが、登山家の間ではフランス語由来の「コル」と呼ばれることが多いです。風の通り道になりやすいため、強風時の休憩には適しません。

キレット(切戸)

コル(鞍部)の中でも、特にV字型に深く切れ落ち、両側が断崖絶壁になっている痩せ尾根のこと。通過に高度な技術と集中力を要する難所を指します。日本では北アルプスの「大キレット」が最も有名です。

カテゴリ2:天候や状況を表す「通」な用語

山でしか出会えない、ドラマチックな気象現象や状況を表す言葉たち。これらを使いこなせると、会話に深みが出ます。

アーベントロート/モルゲンロート

ドイツ語で、アーベント(Abend)は「夕方」、モルゲン(Morgen)は「朝」を意味します。つまり、夕焼け(アーベントロート)や朝焼け(モルゲンロート)によって、山肌(特に岩肌や雪面)が赤く染まる現象のこと。ただの「夕焼け」と言うよりも格段に登山者らしい響きがあり、山の美しさを象徴する言葉です。

ブロッケン(現象)

背後から差す太陽光によって、目の前の霧(ガス)や雲に自分の影が映り、その影の周りに虹色の光の輪(グローリー)が現れる現象。ドイツのブロッケン山で多く見られたことから名付けられました。非常に希少で、見られると幸運とされる現象です。

ホワイトアウト

雪山登山やスキーで使われる、最も危険な現象の一つ。吹雪や濃いガスによって視界が真っ白になり、地面と空の境界、さらには地形の起伏すら全くわからなくなる状態。方向感覚を失い非常に危険です。

ビバーク

「野営」を意味するドイツ語(Biwak)由来。登山においては、予定外の事態(道迷い、怪我、日没など)により、山中でやむを得ず野営して一夜を明かすこと。計画的なテント泊とは区別されます。緊急事態であり、そのための最低限の装備(ツェルト、非常食など)の準備が求められます。

カテゴリ3:アルピニストが使う道具・技術の用語(上級編)

主に雪山登山やロッククライミング(岩登り)など、より専門的な「アルピニズム(登攀活動)」で使われる用語です。

アイゼン/クランポン

氷や固い雪の上を歩くため、登山靴の裏に装着する金属製の爪(滑り止め)のこと。ドイツ語の「アイゼン」が日本では主流ですが、フランス語由来の「クランポン」も同義です。

ピッケル/アックス

雪山登山で使う「杖」であり「つるはし」のような道具。滑落停止(滑った時に突き刺して止める)、雪の斜面に突き刺して体を支える(耐風姿勢)、足場を作るなど、用途は多岐にわたる雪山三種の神器の一つです。(アックスは特にアイスクライミング用のものを指すこともあります)

ザイル(ロープ)

ドイツ語で「ロープ」のこと。日本では特に、クライミングや雪山で命を確保するために使う専用の登山ロープを「ザイル」と呼ぶことが多いです。「ザイルパートナー(=ロープを結び合う仲間)」は、互いの命を預け合う絶対的な信頼関係を示します。

ビレイ(確保)

クライミングや危険箇所を通過する際、ロープを使って登攀者(または下降者)の滑落を食い止めること。また、その技術。「ビレイヤー」は確保する側の人間を指し、登る側の命を握る重要な役割です。

【番外編】登山が楽しくなる「隠語・スラング」の世界

専門用語というほど硬くはないものの、登山者たちの間で日常的に使われている独特な「隠語」や「スラング」が存在します。これらは、登山のカルチャー(文化)そのもの。知っていると会話が弾み、一気に「仲間感」が出ること間違いなしの、ユニークな言葉たちをご紹介します。

カテゴリ1:装備・持ち物に関するスラング

まずは、登山に欠かせないアイテムの「通称」から。多くの登山者が当たり前に使う言葉です。

カッパ

レインウェア(雨具)のこと。見た目が「河童(かっぱ)」に似ているから、という説が有力です。「カッパ(雨具)なしで山に入るのは論外」と言われるほど重要な装備。ザック(バックパック)の中でも、すぐ取り出せる場所に入れておくのが鉄則です。

ヘッデン

「ヘッドランプ」の略語。頭に装着するライトのことです。日帰り登山であっても、道迷いや怪我で下山が遅れた(=日が暮れた)場合、これがないと行動不能になります。カッパと並ぶ必須装備です。

スパッツ(ゲイター)

靴の中に雨水や砂利、小石が入るのを防ぐため、足首から脛(すね)あたりまでを覆うカバーのこと。正式名称は「ゲイター」ですが、日本では「スパッツ」という通称が広く使われています。

カテゴリ2:行動や状態に関するスラング

登山の状況や、登山者の間で交わされる行動に関する隠語です。特に「トイレ」に関する隠語は、自然の中で活動する登山者ならではの知恵とユーモアが詰まっています。

テン泊(てんぱく)

「テント(天幕)で宿泊すること」の略語。「小屋泊(こやどまり)」の対義語として使われます。「次の連休は北アルプスでテン泊しよう」といった具合に使われ、登山者の憧れの一つです。

キジ撃ち/お花摘み

登山者最大の隠語であり、最重要スラングかもしれません。これらは山中での「生理現象(トイレ)」を指します。
・キジ撃ち:男性が用を足すこと。猟師が茂みに隠れてキジを撃つ姿に似ていることが由来です。
・お花摘み:女性が用を足すこと。しゃがむ姿が花を摘んでいるように見えることから来ています。
これらは携帯トイレを持参した上で行うのが現代の必須マナーです。「ちょっとキジ撃ってくる」と言われたら、察して静かに待ちましょう。

グロッキー

ボクシング用語が転じたもので、疲労困憊でふらふらな状態のこと。「シャリバテ」や高山病などで体力を奪われ、「もう一歩も動けない…」という状態を指します。

カテゴリ3:山小屋・グルメに関するスラング

登山の最大の楽しみの一つである「食」や「山小屋」に関連するスラングです。

黄金の水(おうごんのみず)

「ビール」のこと。苦しい登山を終え、山小屋や下山後の温泉で飲む最初の一杯は、登山者にとってまさに黄金の水。この一杯のために登っている人も少なくありません。

山ごはん/ヤマメシ

山頂やテント場などで、自前の調理器具(バーナーやクッカー)を使って作る食事のこと。カップラーメンやアルファ米だけでなく、最近ではパスタやアヒージョ、燻製など、凝った料理を楽しむ「山ごはん」が一大トレンドになっています。

小屋(こや)

「山小屋(やまごや)」の略称。「次の小屋で休憩しよう」「今日の宿は〇〇小屋だ」のように、登山者にとっては「オアシス」であり「目的地」でもある重要な存在を、親しみを込めて呼びます。

登山用語を使う際の注意点

ここまで多くの登山用語を紹介してきましたが、最後にそれらを使う上での大切な注意点をお伝えします。用語は、使い方を間違えるとコミュニケーションを円滑にするどころか、誤解や危険を生む原因にもなりかねません。

1. 知ったかぶりは禁物!意味を正確に理解する

特に「ビバーク」「ホワイトアウト」「シャリバテ」「高山病」といった言葉は、直接的に命の危険や深刻なリスクに結びついています。
これらの言葉の「本当の恐ろしさ」や「状況の深刻さ」を理解しないまま、響きのかっこよさだけで軽く使うのは絶対にやめましょう。言葉を知ることと、その状況に対処できることは全く別です。

2. 相手(仲間)のレベルに合わせる

登山の目的は、仲間全員が安全に楽しんで帰ってくることです。もしあなたが登山初心者とパーティを組んでいる場合、むやみに専門用語やスラング(例:「次のコルでザックを下ろそう」「キジ撃ってくる」)を多用すると、相手は意味がわからず不安になります。

用語は「仲間外れ」にするためではなく、「仲間として」安全を共有するために使うものです。相手が知らなそうであれば、「コルっていう、あの低い部分で」「ちょっとトイレ(キジ撃ちっていうんだけどね)」のように、平易な言葉や解説を添える配慮が大切です。

3. 緊急時は「伝わる言葉」を最優先に

万が一の事故や救助要請の際、焦って専門用語を使っても、相手(救助隊や警察)が登山の専門家でなければ伝わらないケースもゼロではありません。「キレットから滑落」よりも「尾根のV字に切れ込んだ崖から落ちた」の方が、状況が正確に伝わる場合もあります。最も重要なのは「正確に、確実に伝達すること」だと心得ましょう。

まとめ:登山用語を覚えて、もっと深く山を楽しもう

今回は、登山初心者が「絶対に知っておくべき基本用語」から、中級者が憧れる「かっこいい専門用語」、そして仲間との会話が弾む「スラング」まで、幅広くご紹介しました。

登山用語は、単なる知識ではありません。それは、山の地形や天候を正しく恐れ、安全を確保するための「命の道具」です。同時に、山の美しさや厳しさを共有し、仲間との一体感を深めるための「最高のコミュニケーションツール」でもあります。

まずは安全に関わる基本用語からしっかり覚え、次の登山ではぜひ、耳を澄ませてみてください。ベテランたちが使う言葉の意味がわかった瞬間、あなたの登山の世界は、昨日よりも何倍も深く、広く、そして楽しくなっているはずです。

  • この記事を書いた人

登山ガイドヤッホー

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